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釜石医師会報

No.356 令和3年10月号

影冨士

令和3年9月24日早朝、日本第二位の高峰・北岳山頂から見た富士山の山影。時間と天気のタイミングが合わないとなかなか見られない光景です。残念ながら写真はこの一枚だけ。登ることに精一杯だったためでしょう。「まだまだだね」山から問いかけられました。

はまと神経内科クリニック 浜登 文寿

巻頭言

或る日
県立大槌病院 黒田 継久

或る日、朝起きると雨降りだった。
「今日は、内勤か。」と本日開院のボタンを押した。
事務兼看護師が出勤してきたが、9時になっても、患者さんは来ない。来る必要がないのだ。
ブザーが鳴って、画面に患者さんの顔が映し出される。
「元気そうですね。血糖どうですか。」次の画面に自己血糖測定値が表示された。
「では、血圧測ってください」患者さんが測定器に左腕を入れると、血圧ともに体温が表示される。右指を測定器に入れると、さらに酸素飽和度、心電図・脈波が表示される。
「心音を聞かせてください」マイクを胸に当てると、心音が聞こえてきた。僧帽弁→大動脈弁→三尖弁→肺動脈弁と自動的に切り替わり、軽い僧帽弁閉鎖不全症と表示される。
「目を見せてください」患者さんが眼鏡型の器械をつけると眼底写真が表示され、単純性網膜症と表示された。
「お盆で血糖が高かった後、また、血糖高くなっていますね。果物を食べ過ぎていませんか。運動不足になっていませんか。」
「運動不足と思います」とのこと。
「では、携帯電話を持ってそこを歩いてください。」歩く姿勢が評価され、「下半身が弱ってきているようですね。運動処方箋を送ります。とりあえず、1日10分してください」などと診察は15分ほど続き、「では、薬出しておきますね。インスリンの量は大体良いと思いますが、畑仕事の時、果物食べる時どうするか、看護師さんと相談してください。」と診療が終わった。
カルテは会話が自動的に入力され、最後にAIがサマリーを作ってくれる。会計計算も自動で行われ、口座から引き落とされる。
コロナパンデミックから5年、リモート診断・AI診断が進歩して、どんどんすることがなくなってきた。患者さんからAI診断に必要な情報を引き出し、AI診断がおかしくないかを判断し、AIの治療指針を参考にし、治療内容を患者さんとすり合わせることが仕事になった。治療内容のすり合わせといっても、食事療法は、バーチャル栄養士が説明するし、インスリン量の変更も日本糖尿病リスクマネージメント1級を持つ看護師なら、変更指導が可能になった。クローズドループのインスリンパッチポンプがほぼ血糖を正常化させるので、経験を発揮する隙間も無くなってしまった。(この物語は架空の話で、登場する団体も架空のものである)

という世界が、もうすぐ来ると思う。だが、医術は、ものを相手にするのではなく、人を相手にするものです。器械で血糖を良くすることは可能だが、器械をつけたくない方はいます。認知症で器械のことを覚えていられない方もいます。どんなに良い治療でも、それがストレスになったり、実行できなければ意味がありません。丁寧に話を聞き、患者さんの思いを真摯に汲み取り、複数の治療・医療費予想・予後を示し、患者さんが納得する医療で、いい人生だったと思ってもらえるように取り組んでいきたいものです。

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